本研究では、特に、金属原子をフラーレンケージ内部に取り込んだ新規クラスター、いわゆる金属内包フラーレン(endohedral metallofullerenes)分子の固体表面への吸着に注目して研究を行った。その結果、イットリュウム金属内包フラーレン(Y@C82)はCu (111)表面上で第一層から最密充填の秩序構造をとることが解った。一方、Y@C82のSi (111) 7x7表面上への吸着では、第一層、第二層では秩序構造は観測されず、第三層から長周期に秩序構造が観測され始めることが解った。この大きな違いは、金属内包フラーレンと表面との相互作用の大きさにある。すなわち、Si (111) 7x7表面はダングリング結合が多く存在するために、フラーレンとの相互作用が大きいが、Cu (111)上では金属フラーレンは比較的自由にその吸着サイトを変えることができる。 金属内包フラーレンの分子構造および結晶構造を解明する目的で、STMの実験以外に、(1)シンクロトロンX線回折;(2)^<13>C-NMR;(3)ESRの各実験を行った。X線粉末回折の結果、Y原子はC_<82>フラーレンの中心にはなく、炭素原子から2.66A離れたケージ近くにあることが、世界に先駆けて解明された。これは、実験的な“金属原子の内包性"の初めての結果である。また、Sc_2@C_<84>金属内包フラーレンの^<13>C-NMRの結果、二つのSc原子はD2dの対称性を持つC84フラーレンに内包されていることも解明された。
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