研究概要 |
プロトン-電子連動型金属錯体の開発を目指して,分子間水素結合を介して共役系がつながった水素結合型金属錯体の合成と単結晶化を行っている.本年度は,π共役型配位子としてエチレンジアミノグリオキシムを有する遷移金属錯体を合成した.さらにこの金属錯体とアクセプターTCNQとの電荷移動錯体の合成を行った.単結晶のX線結晶構造解析の結果,ドナーとアクセプターが分離積層していること,および,これらの間に水素結合が存在することがわかった.次に赤外スペクトル,ラマンスペクトル,電子スペクトルなどを測定し,電荷移動錯体の電子構造を考察した.その結果,アクセプターTCNQのイオン化度は0.7と決定でき,部分電荷移動錯体を得ることができた.電気伝導度は室温近辺では金属的な挙動を示し,さらに低温においてヒシテリシスを持つ金属-絶縁体転移が存在することがわかった.一方,赤外スペクトルの温度変化においても相転移温度付近においてNH…N 型の水素結合に帰属できる吸収が現れ,電気伝導度における相転移と矛盾しない結果が得られた.これは極めて珍しい挙動であり,現在,より詳細な測定および結果の解析を続行している.
|