トリシクロヘキシルホスフィン・モノヨードボランに一電子還元剤であるLDBBを作用させ、続いてカルボニル化合物などに親電子試剤を反応させた結果、ホウ素原子上に置換基が導入された化合物が良好な収率で単離された。これらの結果は、ホウ素原子上に-2の形式電荷をもつ3配位ホウ素アニオンが生成し、それが親電子試剤と反応したと考えることにより、合理的に説明できる。また、この反応を利用してボラノカルボン酸などの合成的利用価値の高い物質をを収率よく得る手法を確立した。 つぎにこのアニオンの単端離を試みたが、-78℃においても著しく不安定であることがわかった。そこで単離可能なアニオンを発生させるべく、その原料となるP-B-S結合をもつ5員環複素環化合物の合成を行った。この種の複素環は新規骨格を有しており、複素環化学の観点からも興味が持たれる。我々はそれらの合成に成功するとともに、単結晶X線行い、立体構造を明らかにした。さらに反応性についても検討し、ボラノスルホン誘導体の生成などの反応も見いだすことができた。一方、4配位ホウ素原子上での新しい求核置換反応を開発すべく、強力な脱離能をもつトリフルオロメタンスルホニルオキシ(Tf0)を有するホスフィン・ボランを合成した。また、同時に二つのTf0基をもつホスフィン・ボランの単離にも成功し、それらのX線解析を行うこともできた。さらにこのTf0をもつホスフィン・ボランと種々の求核試剤との反応を試みた結果、ホウ素原子上での求核置換が円滑に進行することがわかった。
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