研究概要 |
糖類アモルファス構造の熱安定化作用に関する分子論的検討 前年度の研究により,糖類アモルファス構造が酵素の熱安定化に大きく寄与していることがわかった.そこで糖類アモルファス構造の熱安定化作用について微視的な機構の解明をめざして検討を加えた.具体的には糖-酵素間の水素結合に着目し,FT-IRでの解析を行った. 糖,酵素としてそれぞれスクロース,LDHを用い、スクロース濃度を0から30mg/mlの範囲で変え,LDH濃度は3.5mg/mlにした糖-酵素水溶液を調製した.この水溶液を液体窒素で瞬時凍結し,-30℃で24時間乾燥し,さらに0℃で10時間乾燥した.トラップ温度は-60℃に設定した.次に水分活性をそろえることと,アモルファスならびに結晶化試料の2種類の試料を得るため,水分活性を調整した.アモルファス試料は水分活性調整剤である酢酸カリウムの過飽和水溶液(RH23%, 25℃)を入れたデシケーター内で5日間水分活性を調整した.結晶化試料はNaClの過飽和水溶液(RH75%, 25℃)を入れたデシケーター内で4時間保存し結晶化させ,その後,酢酸カリウムの過飽和水溶液を入れたデシケーター内で5日間水分活性を調製した.この方法によりスクロース濃度が低濃度(20mg/ml以下)の場合にはアモルファス試料が得られ,高濃度(20mg/ml以上)の場合には結晶化試料が得られる.調製した試料を,窒素雰囲気中,65℃で保存した.酵素活性の経時変化は分光光度計で,結晶化度はXRDとDSCで測定した.水素結合についてはFT-IRで各試料のアミドI,アミドIIのピーク波数のシフトを調べた. 酵素活性の保持度合いを調べたところ,アモルファス化した試料の方が酵素活性をより高度に保持することがわかった.また,FT-IRの測定より,スクロースの濃度が4mg/mlの試料の場合,LDH本来の結合水よりはるかに少ない水分しか含有していないにもかかわらず比較的多くの水素結合が生じていることがわかった.これよりアモルファス試料中でのアミドI,アミドIIのピークシフトは糖-酵素間の水素結合によるものであり,この水素結合により酵素が熱安定化されていると考えられる.
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