本年度は本研究の最終年度であることから、これまで行ってきた一連の実験結果をもとに取りまとめの研究を行った。解析材料には、山頂部から山麓部までの各集団が揃っていて個体数の最も多い霧島山系の野生ツツジ集団を対象とした。用いた形態形質は葉長、葉幅、葉形比、前年枝長、花冠径、樹高、花色、花のブロッチ頻度の8項目である。これら8項目の形態形質データを用いて多変量解析のクラスター分析と主成分分析を行った。 その結果、クラスター分析により山頂部の集団と山麓部の集団が形態的にそれぞれ別のクラスターを形成し、さらに中間帯の集団が第3のクラスターを形成した。この形態データによるクラスター分析の結果に、葉緑体DNAマーカーの種特異的バンドパターンで得られたデータを重ねたところ、山頂部集団のクラスターは主にミヤマキリシマ型の葉緑体DNAパターンを持ち、山麓部集団のクラスターはほとんどヤマツツジ型葉緑体DNAパターンの個体で占められていた。さらに第3の中間部集団クラスターには、ミヤマキリシマ型とヤマツツジ型の両方の葉緑体DNAパターンが混在し、このクラスターは明らかに雑種集団であることを葉緑体DNAレベルで証明できた。 また、山頂部集団クラスターで形態的には明らかにミヤマキリシマと分類される個体の一部にヤマツツジ型の葉緑体DNAパターンを持つものがあったことから、両種の間における遺伝子移入が明らかとなった。昨年度の九州各地の山系でヤマツツジ型の葉緑体DNAパターンを持つミヤマキリシマ集団が多数存在した結果と併せ、九州霧島山系は野生ツツジ集団において遺伝子移入が起こりつつある場所である可能性が高い。
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