研究概要 |
植物-病原菌相互作用における情報伝達から遺伝子応答に至る経路に関しては未だ不明な点が少なくない。エンドウの病原体である褐紋病菌の生産するエリシターとサプレッサーは防御応答のスイッチのon-offを行うシグナル分子であり、これらの受容-エフェクター分子-情報分子-遺伝子応答の制御の解明を目指し1年度の研究を行った。エンドウ防御応答に関与する情報伝達系を検索した結果、ATPaseやポリホスホイノシチド(P1)代謝系の重要性が明らかとなった。エンドウ原形質膜及び細胞壁におけるこれら菌シグナルの受容体・エフェクター分子の精製分離を、ATPase活性を指標に試みた結果、以下の知見が得られた。すなわち、原形質におけるATPaseはP1代謝系酵素であるPtdIns及びPtdInsPキナーゼと共可溶化されることが判明し、これらの分子がクロストークしているという以前からの仮説の妥当性を示す結果を得た。両活性は、エリシターで増加し、サプレッサーの共存下には抑制されることから本画分にエリシター・サプレッサーの受容体も含んでいる可能性も示唆された。さらに、レクチンカラムを用いて精製を進めているが、分子量530Kの約8種のサブユニットからなる蛋白質が得られこの中の1分子はATPaseであることが判明した。 これと並行して細胞壁画分から、エリシター・サプレッサー感応性の酵素群、特に今回はホスファターゼについて検索した結果、ATPaseが浮上した。すなわち、本活性はエリシターによって種非特異的に増高し、サプレッサーによって種特異的に抑制された。以上の結果から、細胞壁においても病原菌シグナルの認識がされること、さらに宿主-病原菌の特異性を決定するシステムの存在することが強く示唆された。現在、本ATPaseの精製を進めている。 病原菌シグナル因子による植物防御遺伝子の発現調節に必要なシス・トランス因子の割り出しを進めるため、PAL,CHS遺伝子プロモータにGUSを連結した遺伝子を導入したトランスジェニック植物体を作出し、感染局部におけるGUS発現を検索し以下の結果を得た。1)Loss of function実験からPSPAL1,PSPAL2各遺伝子5'プロモータ領域に含まれるエリシターあるいはUV照射による発現誘導応答に必要なシス因子の候補としてbox1(L-box),box2(P-box),box4(AT-box)があげられた。このことはゲル・モビリテイー・シフトアッセイやDNaseI,OP-Cu footprinting analysisによっても確かめられた。2)トランスジェニックタバコにおけるキメラ遺伝子の発現様式からPSPAL1,PSPAL2プロモータはともに、根・下位茎における組織特異的発現に関与していることが示唆された。また、PSPAL1プロモータは、さらに花弁の色素沈着部における特異的発現に関与していることが明らかとなった。3)PSPAL1,2およびPSCHS1,2のすべてのプロモータ領域のATリッチシークエンスに結合する共通のタンパク質はHMG-I/Yに類似するDNAベンデイングに関与するタンパク質である可能性が大きい。
|