多くの細胞は自らの容積を常に一定に保つメカニズムを持ち、細胞内外の浸透圧環境の変化によって一時的に膨張や収縮を強いられても元の容積へと復帰する能力を持つ。例えば、細胞内での浸透圧活性物質の蓄積や細胞外低浸透圧化によって膨張を強いられた場合には、そののち速やかに正常容積へと戻るところの調節性収縮(RVD:regulatory volume decrease)で応答する。このような容積調節能は、糖やアミノ酸などの有機溶質の能動的吸収の過程で細胞内外に大きな浸透圧勾配を形成する小腸上皮細胞においてとりわけ重要である。1昨年度は細胞容積調節に関与する上皮細胞C1^-チャネルの特性をシングルチャネルレベルで明らかにした。最近、多剤耐性薬物排出ポンプMDR1すなわちP糖蛋白が浸透圧性膨張時には容積感受性C1^-チャネルに機能スイッチするとの「ポンプ/チャネルスイッチ仮説」と、P糖蛋白は容積感受性C1^-チャネルそのものではないが、このチャネルに対してのCキナーゼを介する制御因子であるという「Cキナーゼ仲介性制御因子仮説」が提出された。そこで昨年度は、内在性のP糖蛋白が浸透圧性細胞膨張時に本当に容積感受性チャネルやそのCキナーゼ仲介性制御因子として振舞うかどうかをヒト小腸上皮細胞株Intestine407を用いて検討し、内在性P糖蛋白については両仮説ともあてはまらないことを明らかにした。本年度は、MDR1遺伝子を外来性に強制発現させたKB細胞系において両仮説を検討した。その結果、P糖蛋白の強制発現は、(1)容積感受性C1^-チャネル電流の最大値に何ら影響を与えないこと、(2)その点はCキナーゼの活性化因子や阻害剤の投与によっても何ら影響を受けないことが観察され、両仮説とも外来性P糖蛋白に対しても正しくないことが明らかになった。しかし、P糖蛋白の強制発現によって、このチャネルの容積感受性は著しく高まることを、世界ではじめて明らかにした。本年度は、更に細胞外ヌクレオチドの効果を観察し、容積感受性C1^-チャネルは細胞外ATPによってオープン・チャネル・ブロックを受けること、細胞外サイクリックAMPやサイクリックGMPには同作用は見られないことを明らかにした。
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