多くの細胞は自らの容積を常に一定に保つメカニズムを持ち、細胞内外の浸透圧環境の変化によって一時的に膨張や収縮を強いられても元の容積へと復帰する能力を持つ。例えば、細胞内での浸透圧活性物質の蓄積や細胞外低浸透圧化によって膨張を強いられた場合には、そののち速やかに正常容積へと戻るところの調節性収縮(RVD:regulatory volume decrease)で応答する。このような容積調節能は、糖やアミノ酸などの有機溶質の能動的吸収の過程で細胞内外に大きな浸透圧勾配を形成する小腸上皮細胞においてとりわけ重要である。1994年度は細胞容積調節に関与する上皮細胞Cl^-チャネルの特性をシングルチャネルレベルで明らかにした。多剤耐性薬物排出ポンプMDR1すなわちP糖蛋白が浸透圧性膨張時には容積感受性Cl^-チャネルに機能スイッチするとの「ポンプ/チャネルスイッチ仮説」と、P糖蛋白は容積感受性Cl^-チャネルそのものではないが、このチャネルに対してのCキナーゼを介する制御因子であるという「Cキナーゼ仲介性制御因子仮説」が提出された。そこで1995年度は、内在性のP糖蛋白が浸透圧性細胞膨張時に本当に容積感受性チャネルやそのCキナーゼ仲介性制御因子として振舞うかどうかをヒト小腸上皮細胞株Intestine 407を用いて検討し、内在性P糖蛋白については両仮説ともあてはまらないことを明らかにした。1996年度は、更に細胞外ヌクレオチドの効果を観察し、容積感受性Cl^-チャネルは細胞外ATPによってオープン・チャネル・ブロックを受けること、細胞外サイクリックAMPやサイクリックGMPには同作用は見られないことを明らかにした。本年度は、MDR1遺伝子やその変異体を外来性に強制発現させたKB細胞系において両仮説を検討した結果、両仮説とも外来性P糖蛋白に対しても正しくないことが明らかになった。また、MDR1のATP水解活性は本Cl^-チャネルの活性には何ら関係しないことも明らかにした。更に本年度は、容積感受性Cl^-チャネルの活性化の細胞骨格依存性と機械的膜伸展依存性の有無をしらべ、アクチン感受性を示すが、膜伸展ではなく膜のたたみこまれのunfoldingによって本チャネルが活性化されることをはじめて明らかにした。
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