研究概要 |
カルシウムイオンとその受容体蛋白質であるカルモデュリンによって活性化される新しい蛋白質燐酸化酵素,カルモデュリンキナーゼV(CaMKV)を発見・精製し、更にこの分子を燐酸化し活性化する別のカルシウム-カルモデュリンキナーゼが存在することを示し,新しいカルシウム-カルモデュリン依存性蛋白質燐酸化酵素群活性化メカニズムを解明する上で,CaMKV活性化因子をラット脳から精製し,その酵素学的,生化学的性格について検討し更にその部分アミノ酸配列を決定した. CaMKVは,自己燐酸化によってカルシウム-カルモデュリン依存性活性は増大するが非依存性活性は不変である.ラット小脳より精製したCaMKVを用いて解析すると,自己燐酸化は分子間反応であり自己燐酸化と基質燐酸化能には相関関係がみられた.CaMKV活性化因子自身も自己燐酸化され、熱不安定な性格と部分アミノ酸配列中にキナーゼ部位が存在したこととあわせてキナーゼであると思われた. CaMKV活性化因子はCaMKVをカルシウム-カルモデュリン依存的に燐酸化することによりその活性化機構を調節している.活性化因子によるCaMKVの燐酸化とCaMKVの自己燐酸化反応を解析したところ、共にストイキオメトリカルに燐酸化反応が見られるが活性化因子によるそれの方が短時間で最大に達した.これは生理的条件下におけるキナーゼカスケードを考える上で活性化因子の存在を意味付けるものと考えられる. 一方,カルモデュリンキナーゼIV(CaMKIV)も自己燐酸化によって活性調節が行われているがCaMKVと異なりカルシウム-カルモデュリン依存性活性と共に非依存性活性も増大する.先の活性化因子は,このカルモデュリンキナーゼIV(CaMKIV)をも燐酸化してCaMKVと同様に活性を調節しているが,その調節機構は自己燐酸化によるそれと同じであった.更にCaMKIVとCaMKV間にも相互燐酸化がみられ,カルシウムイオンをセカンドメッセンジャーとする細胞内情報伝達においてカルモデュリンキナーゼ群のカスケードが統合的に働いていることが示唆された.
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