研究概要 |
B型肝炎において細胞障害性T細胞(CTL)の標的となるようなB型肝炎ウイルス(HBV)由来のpeptideを同定するため,まずHBVキャリアにおける病態とHBVのアミノ酸変異についてlong-PCRおよびdirect sequnece法を用いてHBVの全領域を調べた.肝障害が強くなるほどcore領域およびPre-S領域にアミノ酸変異が起こってくることが判明した.core領域では,コドン84-101に集中してアミノ酸変異が見いだされ,これら変異の多い部位が免疫標的,すなわちCTLのエピトープである可能性が示唆された. また,long-PCRにて得られた全長HBV DNAをHuh7細胞にtransfectionすることにより複製,増殖する系を確立し,ウイルス変異の複製に及ぼす影響を検討した.Pre-core領域にstop codonを生じるようなmutationを導入することで,HBe抗原は産生されなくなるが,その増殖はwild typeと変わりないことが判明した. また,CTLにおけるT細胞受容体(TCR)の遺伝子構造解析を行い,そのレパートリーの決定を試みた.HBe抗原陽性の慢性B型肝炎患者より採取された肝組織および末梢血リンパ球を用いて,lnverse PCR,cloning,sequencingによりTCRα鎖の遺伝子構造解析を行った.肝内浸潤リンパ球においては,高頻度のVα7.2遺伝子の使用が見られ,これらVα7.2遺伝子の大部分がJα33遺伝子と結合していた.また,Vα7.2遺伝子とJα33遺伝子の間のN領域はすべて2個のアミノ酸よりなり,CDR3部分は互いに似通った構造を持っていた.T細胞はそのTCRを介して,HBV感染肝細胞上でHLA分子と結合したHBV由来のpeptide抗原を認識する.このTCRの抗原認識の特異性に関わるVα遺伝子,N領域とJα遺伝子の結合部,すなわちCDR3部分の共通した構造は,何らかのHBV由来のpeptide抗原に対応していることが推測された.
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