研究概要 |
本研究は,ヒトの神経系を侵す変性疾患の発症機構を解明し,その動物モデルを作製することを目的にしている。本年度は,遺伝性脊髄小脳変性症に属する歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)に焦点をあて,その原因遺伝子の全長のヒトDRPLAcDNA,ヒトおよびstrain129マウスのゲノムDNA,全長のcDNAのクローン化を終了した。さらに,ヒトおよびマウスの全長のcDNAについては全構造解析を終了した。その結果,ヒトおよびマウスにおいて,CAG repeatは確かにタンパクへの翻訳領域に存在し,polyglutamineをコードしていることが判明した。データベースの検索からは,その機能を示唆するようなドメイン構造は見出されておらず,現在のところ,遺伝子産物の機能は不明である。 現在,CAG繰り返し配列の増大した変異cDNAの作製を行っているところであり,平成7年度には,変異cDNAを有するトランスジェニックマウスの作成が可能になる予定である。ゲノムDNAについては,ヒトおよびマウスのゲノムDNAクローンの単離を終えており,平成7年度にその構造解析と,gene targettingを行う予定である。 一方,CAG repeatの増大に関しては,歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症,Machado-Joseph病について詳細な解析を行い,これらの疾患の臨床像とCAG repeatの増大の程度との間には明瞭な負の相関関係があることを明らかにした。また父親が発症者であった場合に,その子に増大したCAG repeatがより不安定になることを見出し,CAG repeatの増大が病因となっている疾患に共通の現象であることを証明した。さらに,CAG repeat病に見られる不安定性の機序を解明する目的で,現在,CAG repeatの周辺の塩基配列の解析を行っており,CAG repeatの不安定性に影響するcis elementの同定を目指している。
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