SH2ドメインを持つチロシンフォスファターゼとしては、SH PTP-1とSH PTP-2が知られている。我々は、SH PTP-2がIRS-1に結合し、インスリンによるras蛋白の活性化に関与していることは既に明らかにしたが、SH PTP-1についても検討した。SH PTP-1は血液系の細胞のみにその発現が認められるが、インスリン受容体を発現したChinese hamster ovary (SHO-IR細胞)に発現するとインスリン依存性にその538番目のチロシン残基が燐酸化され、内在するチロシンフォスファターゼ活性が増加することを見い出した。しかしながら、SH PTP-1はインスリンに感受性のある組織での発現が明らかでなく、この蛋白のインスリン作用における生理的意義は不明である。IRS-1にはGrb2・Sos複合体が結合すること、ならびにSosにはcell-free系でras蛋白を活性化する作用があることが知られていた。我々は、ras蛋白を活性化しえない変異SosをCHO-IR細胞に発現してインスリン作用を検討した結果、Grb2・Sos複合体がインスリンによるras蛋白の活性化に関与していることを見い出した。インスリンによるグリコーゲン合成酵素の活性化は、ras蛋白活性化の下流にあるという考えが一般的であったが、我々は変異Sosを発現したCHO-IR細胞ではグリコーゲン合成酵素の活性化は正常であることを見い出し、インスリンによるグリコーゲン合成酵素の活性化はras非依存性であることを明らかにした。更に、PI3-キナーゼ85kDaサブユニットの糖尿病者における変異についても検討し、326番目のメチオニンからイソロイシンの変異が100名のNIDDMと正常者で比較した場合、NIDDMで有意に多いことを見い出した。
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