研究概要 |
糖尿病はインスリン作用の相対的不足によりもたらされる疾患であり、インスリンの作用機序ならびに、糖尿病におけるインスリン作用低下の機序を解明することは、非常に重要な研究テーマである。インスリン分子がインスリン受容体に結合すると、インスリン受容体のチロシン残基の燐酸化と内在するチロシン残基に特異的なプロテインキナーゼ活性が活性化される。このインスリン依存性に活性化されたチロシンキナーゼは、IRS-1をはじめとするいくつかの細胞内蛋白のチロシン残基を燐酸化する。、このIRS-1のチロシン燐酸化部位には、SH2ドメインを介してPI 3-キナーゼ、SH PTP-2,Grb2・Sos複合体が結合する。以上の点が明らかにされていたが、このIRS-1に結合するこれらの分子がインスリン作用の中のいかなる作用を伝達しているのかは不明であった。そこで、本研究ではインスリン受容体を発現させたchinese hamster ovary細胞(CHO-IR細胞)を用いて、IRS-1に結合する蛋白のdominantnegative型を細胞内に発現して、それぞれの蛋白がどのようなインスリン作用を伝達しているかを明らかにした。すなわち、PI 3-キナーゼはインスリンによる糖輸送の活性化、すなわち糖輸送担体のトランスロケーションに関与しているがras蛋白の活性化には関与していないことが、一方、Grb2・Sos複合体とSH PTP-2はインスリンによる糖輸送の活性化には関与していないが、ras蛋白の活性化には関与していることが明らかとなった。またインスリンによるグリコーゲン合成酵素の活性化には、従来いわれていたras・MAPキナーゼ系は関与していないことが明らかとなった。今後は、PI 3-キナーゼ活性化の異常が糖尿病の発症とどのように関与しているかが重要な研究テーマとなるであろう。
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