研究課題
臓器移植において安全に免疫寛容を誘導できるプロトコールを開発するため、サルの腎移植モデルを用いて研究した.基本的なプロトコールはSachsがマウスで成功したプロトコール(Sharabi Y:J Exp Med 169:493,1989)に基づくもので、理論的にはドナー骨髄のengraftmentに必要最低限の全身照射(3Gy)および胸線照射(7Gy)と抗リンパ球抗体の投与によりmixed chimerismを誘導し、おもに胸線におけるclonal deletionにより免疫寛容を導入するというものである.【方法】MHC full mismatch間のカニクイザルを用いて同種腎移植をおこなった.今回われわれが研究したプロトコールは、全身照射(2.3Gy、術前6日)+抗胸線グロブリン(ATG)[Gropu 1]、全身照射+ATG+胸線照射(7Gy、術前6日)[Group 2]、全身照射+ATG+胸線照射(7Gy、術前1日)[Group 3]のそれぞれの前処理を施し、手術日に腎移植とドナー骨髄移植を行うものである.これにさらにCyclosporine(CsA)を45日間投与したのち中止した.また、各Groupにおいて脾摘の必要性も併せて検討した.【結果】すべてのGroupにおいて術後さまざまな程度のmultilineage chimerismが誘導された.しかしGroup 1においては、術後60日前後(CsA中止直後)に、Group 2でも多少生着期間は延長したものの移植後100日前後で移植腎は拒絶された.移植腎の免疫寛容はGroup 3のサルのみに獲得され160日経過した現在も免疫抑制することなく正常な腎機能で生着している.また、脾摘を施行しなくてもchimerismと免疫寛容は誘導され、このプロトコールにおいて脾摘は必要がないと思われた.【考察および結論】(1)Chimerismの誘導には2.3Gyの全身照射で十分であり、胸線照射は関係していない.(2)免疫寛容の誘導のためには、chimerismの誘導が必要条件であるが十分条件ではない.(3)このフロトコールによる免疫寛容の誘導には、胸線照射が必要であり、かつそのタイミングも重要と考えられた.(4)GVHDの合併は1例においても認められず、このプロトコールの安全性が確認された.
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