研究概要 |
本年度は,昨年度作成した脳磁計測に適した各種感覚刺激装置をもとにして,刺激・計測条件を脳磁計測に適した形に標準化し患者への負担を軽減した.その上で頭蓋内病変を有する症例と正常被験者との差を抽出すべく脳の情報処理機構の解析を行った. 得られた成果を要約すると,まず体性感覚誘発磁界においては刺激部位の多様化に成功し,手指別刺激,陰茎刺激などでも関連する脳の感覚領域を特定できた.聴覚誘発磁界では長潜時反応のみならず中潜時反応の機能局在推定を行い,大脳半球機能の左右差において新知見を得た.視覚誘発磁界では,これまで視覚野の広い範囲から出現するとされていたパターンリバーサルP100反応が,実際には烏距溝奥の一部のみから出現することを証明した.また半視野刺激に加えて全視野刺激でも両側後頭葉視覚野を評価できることを見いだし,臨床応用への新しい道をひらいた.新たに味覚誘発磁界を計測し,島・弁蓋部付近に信号源を推定した.自発脳磁界においては,てんかんの異常波に加えて脳虚血性病変近傍由来の除波計測にも成功した. 本研究の成果が各分野に与えたインパクトを整理すると,まず臨床医学分野では脳磁図が実際の脳疾患治療に有用であることを示した.すでにわれわれの施設においては術前診断のための日常ルーチン検査として利用されている.脳の生理学分野に対しては,脳波では解決できなかった疑問を解決し脳磁図の利点を印象づけた.以上の成果は単に脳磁計開発を促進させるのみならず、超伝導技術の応用全体をも加速するものと考えられる.
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