クローン化したラットμオピオイド受容体のcDNAをマウス神経膠腫とラット神経芽細胞腫の雑種細胞であるNG108-15細胞に導入してμ受容体を発現する神経由来細胞株を作成した。この細胞株を生化学的ならびに電気生理学的に解析して、アゴニストによるμ受容体の活性化によってアデニル酸シクラーゼの活性が抑制されて細胞内サイクリックAMP含量が低下すること、N型カルシウムチャンネルの活性が選択的に抑制されることを明らかにした。 また、μ受容体とδ受容体のcDNAを操作することによりキメラ受容体および一つのアミノ酸のみを他のアミノ酸に置換した変異受容体を作成し、そのリガンド結合特性を解析した。その結果、μ選択的オピオイドペプチドとδ選択的オピオイドペプチドは受容体上の異なる領域によりその選択性が決定されていることを明らかにした。さらに、μ選択性を決定する受容体上の領域はアルカロイドの場合とオピオイドペプチドの場合で異なることを示した。また、μ受容体とδ受容体のμ選択的オピオイドペプチドに対する親和性の差は細胞外ループ領域内の一つのアミノ酸の違いにより生じることが明らかになった。これらの結果は、アゴニストの選択性の分子機構を明らかにする上で重要な知見であり、現在臨床的に使用されている麻薬性鎮痛薬よりも選択性が高く副作用の少ない鎮痛薬の開発に貢献することが期待される。 μ受容体を大量に発現する細胞株をcDNAを導入することにより作成し、μ選択的アゴニストの刺激によりμ受容体が細胞内に取り込まれリガンド結合活性が消失すること(down-regulation)を示した。これは、生体における麻薬耐性の成立機構を検討する上で有用なモデルとなることが期待される。
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