3種類のオピオイド受容体のリガンド結合親和性の差が受容体分子のどの部分の違いに基づくのかを明らかにするために、cDNAの人工的改変と培養細胞における発現系を用いてμ受容体とδ受容体のキメラを作成してそのリガンド結合特性を検討した。その結果、μ受容体に選択的に作用するアゴニストDAGOに対する親和性の差は細胞膜貫通領域IIからIIIに至る領域のアミノ酸配列の差に基づくことが明らかになった。さらにこの領域内のアミノ酸残基を改変した変異受容体を検討し、μ受容体とδ受容体の1アミノ酸残基の違いがDAGOに対する親和性の差を決定することを示した。 NG108-15細胞にcDNA導入によりμ受容体を発現させて、アゴニスト刺激で誘発されるCa^<2+>チャンネルの応答をパッチクランプ法で解析し、μ受容体の活性化により百日咳毒素感受性G蛋白を介して主にN型Ca^<2+>チャンネルの活性が抑制されることを明らかにした。 CHO細胞にcDNAを導入してオピオイド受容体を発現させ、アゴニスト作用によりMAPキナーゼの活性変化を検討した。オピオイド受容体の活性化によりMAPキナーゼ活性が上昇すること、この応答には百日咳毒性感受性G蛋白とプロテインキナーゼCが関与することが明らかになった。さらにMAPキナーゼ活性が上昇する結果、ホスホリパーゼA2が活性化されアラキドン酸の放出が起こることを示した。 CHO細胞にμ受容体を発現させて、アゴニスト刺激が持続的に加わった際の受容体機能の変化を検討した。アゴニスト刺激により受容体が細胞内に取り込まれてリガンド結合活性が低下する一方、アデニル酸シクラーゼ活性は上昇しサイクリックAMP産生量は増加していた。 以上の成果はオピオイド受容体機能の分子レベルでの理解を深め、麻薬耐性の分子機構解明への基礎となることが期待される。
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