研究概要 |
(1)細胞化学的実験:グルタミン酸(1mM)、NMDA(1mM)、カイニン酸(1mM)を10分間投与した直後の培養細胞の生存率は非処理群と差はないが、1〜24時間これら興奮性アミノ酸を含まない溶液で培養すると培養細胞の生存率が30〜40%に著明に低下した。これら興奮性アミノ酸の短時間投与による遅延性の細胞死は、NMDA受容体拮抗剤であるMK-801(10μM)によって拮抗された。一方、カイニン酸の10分投与による遅延性細胞死はtetrodotoxin(0.3μM)同時投与によって抑制されたが、60分投与後の細胞死は拮抗されなかった。NO合成酵素阻害剤のN^ω-nitro-L-arginineおよびNOに対する結合能を有するヘモグロビン(Hb)はグルタミン酸、NMDA神経毒性を抑制した。NO生成試薬のニトロプルシド(SNP,500μM)およびS-ニトロソシステイン(SNOC,500μM)の短時間投与で遅延性細胞死が生じた。SNP,SNOCにより誘発される神経毒性はHbにより抑制された。NO生成試薬は、単独では細胞生存率に影響を与えない低濃度(50μM)でNMDA神経毒性を著明に抑制した。 (2)電気生理学的実験:whole cell clamp法にてMg^<2+>非存在下、-80mVに膜電位を固定してNMDA(50μM)あるいはカイニン酸(50μM)を投与すると90〜160pAの内向き電流が誘発された。この内向き電流は2つの減衰相より構成されており、脱感作(desensitization)における急速および緩除相を表しているものと考えられた。一方、-80mVに膜電位固定下、カイニン酸(50μM)を投与すると350〜540pAの内向き電流が誘発されたが、3秒間の投与時間中において電流の振幅には減衰傾向は認められなかった。続いて、SNP(500μM)を3分間投与して後、直ちに興奮性アミノ酸を投与した際誘発される電流を調べた。SNPは、NMDAによる誘発電流を著明にに抑制した。この抑制効果はSNP投与5分後には消失し、NMDAによる電流の誘発は完全に回復した。一方、SNP(500μM)は、カイニン酸誘発電流には影響を与えなかった。 以上の結果より、NMDA受容体刺激により生成したNOは、神経毒性に関与するとともにフィードバック的にNMDA受容体を抑制するという二面性を持つと考えられるに至った。
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