研究概要 |
Raf-1のRas結合ドメイン(RBD,81残基)をベクター由来のペプチド鎖との融合タンパク質として発現することにより,NMR解析に適した試料を得た.^<13>C,^<15>Nの安定同位体標識により,このRBD単独での立体構造を決定した.さらに,GMPPNP結合型Rasタンパク質とRaf-1のRBDとの複合体(分子量3万を超える)について,NMR解析を試みた.まず,無細胞タンパク質合成の効率を著しく高め,1ml当たり0.4mgのRasタンパク質を合成し,Asp38-Ser39およびPro34-Thr35に特異的な^<13>C-^<15>N標識を行い,複合体におけるシグナル帰属に成功した.これにより,RBDとの結合に伴い,GTP結合型Rasに特徴的なコンホメーション多形性が消失し,一形に固定されることがわかった.他方,完全的な^<13>C,^<15>Nの標識に加えて,パ-シャルな^2H標識を行うことにより,複合体における両タンパク質の主鎖シグナルをすべて帰属することに成功した.複合体形成に伴う化学シフト変化の基づいて,相互作用の様式を推定した.他のグループから,Raf-1を活性化できないRap1Aタンパク質とRaf-1のRBDとの複合体の結晶構造が報告されたが,それとの比較により,Raf-1活性化に必要な相互作用のモデルを得た. 多数のRas変異体を用いることにより,Raf-1活性化の仕組みを解析した.Raf-1では上述のRBDに加えてCys-rich domain(CRD)がRasと結合することが示されたが,本研究の結果により,Rasのエフェクター領域がRBDと結合し,アクティベータ-領域がCRDと結合し,その両相互作用が,Raf-1活性化に必要であることが明らかになった.
|