研究概要 |
ヒトHa-Rasの変異体(約80種)について,GAP,NF-1,Raf-1(全長およびRas結合ドメイン(以下RDBと略す)),RalGDS/RGL-RBD,Byr2-RBD,Scd1-RBDおよびアデニル酸シクラーゼとの相互作用を解析した.他方,PC12細胞について,変異体ras遺伝子の誘導発現による形態変化およびMAPKの活性化を解析した.その結果,特定のシグナル伝達機能のみを保持している変異体,あるいは,欠いている変異体を得ることができた.それらの中には,多次元NMR法により構造解析を行った結果,コンホメーションの多形性が消失している変異体が存在した.さらに,Raf-1-RBD,または,RGL-RBDとの結合にともなって,GPT結合型のRasのエフェクター領域が一形に固定されることがわかった.したがって,エフェクター領域の多形の一つ一つが異なるターゲットとの相互作用を担うことが結論された. また,Raf-1-RBDおよびRGL-RBDについて多次元NMR法による立体構造解析を行い,両RBDが似た二次構造をとっているという結論を得た.したがって,両ドメインは,立体構造的な「共通フレームワーク」をもっているが、少しづつ異なった認識を行っていることが明らかとなった. 多数のRas変異体を用いることにより,Raf-1の活性化には上述のRaf-1-RBDとRasのエフェクター領域との結合に加えて,Raf-1のCys-rich domain(CRD)ちRasのアクティベータ-領域との相互作用が必要であることが明らかとなった.さらに,Rasの31番の残基がLysのときのみRaf-1-CRDと異常に強い結合を示し,この性質がRaf-1の活性化を阻害すると考えられた. RasのGDP/GTP交換因子であるSosのPHドメインの構造を多次元NMR法により決定し,さらに,そのイノシトール3リン酸の結合部位を同定した.また,SosのGDP/GTP交換促進活性をもつ最小の領域を決定し,その領域のみを含む断片を細胞内で発現させると,それのみで膜へと移行しRasを活性化することを見いだした.さらに,SosのDHドメインが刺激のない細胞内において,自分自身のRas活性化能を阻害することを明らかにした.
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