研究概要 |
本年度は,将来開発されるべき人工筋肉素子のエネルギー変換・供給法及び実験・計測法について研究した.特に,ランダムな場(熱雑音)の一部を利用して動作する機械の可能性に関して考察した.つまり,今迄の機械(我々の人工筋肉素子)は,媒質分子の熱運動に打ち勝って仕事をする事が可能ではあり,このために多量の入力エネルギーを必要とした.このために,エネルギーロスも膨大なものとなった.そこで,前年度までの人工筋肉素子とは,異なる確率共鳴の原理で動作する機械,つまり,サブマイクロスケールの人工筋肉素子に振動様の微小な外力を加える事により,人工筋肉素子の出力が,媒質分子の熱運動と結合し変化することを示した.この現象は,Stochastic Resonance(確率共鳴)の一種であり,このために外力が一定であっても,環境温度を変えることにより,人工筋肉素子の出力が変化することを意味している.また,蛋白質で作られたアクチン・ミオシン複合体は,金属で作られた人工筋肉素子と比較して(半径)^∧2・(粘性係数)^∧2/mの値が極端に大きい.このために,効率良く確率共鳴を起こすことができ,周囲の媒質分子の熱運動のエネルギーを巧く筋収縮の出力に変換している。また,筋肉素子が水中で運動する時,運動速度が小さい場合には,層流しか生ぜず外力とノイズとの間での確率共鳴は生じない.しかし,系に乱流が発生した瞬間に外力はノズルと結合して確率共鳴を生じる.この場合に,エネルギーは,完全に無秩序な仕方で供給されるのであるが,系は明確な巨視的モードを作る.この原理は,マイクロ領域の物体の運動では一般的な性質であり,我々が,人工筋肉素子の入出力を熱エネルギーと外力の両面からコントロールすることが可能である事を示している。これらは,レーザー捕捉装置,冷却CCD,マイクロ操作装置,特殊光源等の一連のマイクロ実験装置群を用いて評価・計測が可能となった.
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