平成6年度は、ハイデガ-哲学の歴史的背景の探索に集中した。先ず、ハイデガ-哲学とソクラテス以前の諸哲学、とりわけヘラクレイトスとパルメニデスの思想との関連は、ハイデガ-自身が己の著作のうちで言及しているとうり、極めて深いものがあり、したがって、まず、これらの諸思想の根底にある世界観を明らかにし、それとハイデガ-哲学の構造がいかに必然的な連関のうちにあるかを、確認することに努めた。さらに、アリストテレスの『形而上学』における存在の思索との対決がハイデガ-自身の存在思想の形成にどにような影響を与えたか、を、ハイデガ-の『アリストテレス〔形而上学〕講義』を研究しながら究明し、アリストテレスのデュナミス・エネルゲイア論がハイデガ-の後期思想の形成にいかに大きな影響を与えたか、を確かめることができた。そして、第三には、マイスター・エックハルトの神秘主義思想、および、その背景にあると思われるキリスト教に流入した新プラトン派とハイデガ-思想との関係の解明を目指し、学術振興会の招請で来日した新プラトン派の世界的専門家Denis O'Brien教授との共同演習なども行いながら、この方面の探究に糸口をつけた。さらに、来年度への研究の継続を考慮しつつ、現在は、ハイデガ-とレヴィナスにおける死、時間、神の思想を比較しながら、その問題点を思索中である。
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