本研究は、本来、すでに出版助成を得て公刊された『劉向「列女伝」の研究』での知見をもとに、『後漢書』列女伝資料を、歴史的思想史的な観点に立って詳細に研究することを第一目標とした。そして、これをもとに、さらに漢魏晋時代におけるその他の関連資料への検討を加えて、中国古代中世における女性伝記資料への歴史的思想史的な研究として総合的にまとめることを計画していた。しかし、本科研費が認定された時点(平成6年度)においては、『後漢書』列女伝に対する検討はほぼ終了し、これも出版助成を得て公刊を遂行する段階にあった。ただし、出版のための諸作業は、科研費による研究作業と同時進行のかたちとなり、実際には、この時期に原稿完成のため加筆・改筆などもなしているから、本年度(平成6年12月)に公刊した『儒教社会と母性』-母性の威力の観点でみる漢魏晋中国女性史-も、研究実績の一部であると自覚している。 本年度の研究実績の中心は、『華陽国志』の列女伝記の研究である。その成果の一部として、広島大学文学部『紀要』第54巻に、「『華陽国志』列女伝記研究(1)」を発表した。内容は、巻10上の蜀郡列女伝記に対する詳細な資料研究である。まず、『華陽国志』の書としての成立や性格を検討した。次に、列女伝記を取り上げ、原文を解読し、関連資料を検索・引用しつつ、伝記の性格を詳細に検討し、伝記内容の理解に必要な解説を加えた。また、中国女性史研究のための資料としての各伝記が具え持つ特質について注目している。すなわち、儒教社会で女性存在に対して要請される役割や自覚がいかなる具体的なかたちで各伝記の中に確認されるかを明らかにし、解説を付け加えた。なお、この研究は現在も進行中であり、成果は続いて公表する予定である。
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