本研究は、中国古代中世、この内でも、特に、漢〜醜晋における女性史関係資料に対して、歴史的思想史的な観点に立脚して詳細なる分析・検討を加え、かつこれらを総合的に分類整理して、儒教家族制の中での女性の社会的位置づけないし社会的役割の展開・推移について考察し、従来とは全く異なった角度から、中国女性史を再検討することを目的とした。 研究の成果、(1)この時期の女性史資料として『華陽国志』に収める列女伝記に注目、これを、詳細に解読し、関連資料を綿密に調査し、さらに女性史資料としての諸特質を検討した。この研究は今後も継続される。 (2)中国の歴史・思想史は、儒教思想を抜きにしては語れない。この思想は、従来、男性の権威すなわち父性原理に立脚するものとされた。しかし、女性伝記資料の詳細な分析・整理をとおして、むしろ女性存在こそこの思想の基盤を構築する重要な位置にあることを論証した。(3)儒教思想の核ともいうべき孝の理念について、孝子伝記資料や関連古典籍資料などを調査・分析して、従来とは異なる新鮮な角度から、その本質や意義を明確にした。(4)孝の理念と母性との密接な関係について、古来の教説や女性教導資料などを用いて論証した。 以上、特に儒教思想や社会における女性依存の位置や、孝の理念形成における母性の役割など、従来の中国学は、まったく研究対象としなかった。本研究での成果の一は、女性研究にもとづく、中国学の新たな可能性を模索し提示し得たことにあるといえよう。なお、以下のような反省点が有る。女性史関係資料への歴史的思想史的な観点での詳細な研究は、なお作業が完成に至らなかった。この点については、今後も研究助成を申請して、女性教導資料の中国近世における展開にも目を配りつつ、幅広い意義深い研究成果としての完成を期する。
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