研究概要 |
各研究分担者によって次の進展があった。 1.初期仏典の『梵網経』も六十二見としてまとめられた"自我と無我"に関する異説のパターンが,インド最後期の仏教者(12世紀)にどのような理解をもって引用され,論ぜられているか,その一例を『八千頌般若経注解・Amnayanusarini』のうちにたどり,その特色を明らかにした。 2.日本仏教における「庶民信仰」に視点を置いて,その概念(シンクレティズム的な性格の重要性)と歴史的展開(『日本霊異記』等を手がかりとして)を考察・解明し,実態調査の報告(青森県下北地方の地蔵信仰を中心に)を行った。 3.日本における「民間信仰」の用語の性格・概念をその研究史をたどることによって再確認するとともに,研究史の動向を明らかにした。それをふまえて,我が国に伝えられたインド産の神々の受容と変容の実態調査を行いその特色を明らかにした。 4.ジャナイ教と仏教の最初期の文献をコンピューターにより処理し解析することによって,両文献群の共通点と相違点を明らかにした。この成果をふまえて,両者が共通の基盤から発生し,次第に異質化が進んでいった実態の一端を解明した。 5.ヴェーダーンタ派のシャンカラによる唯識説批判を検討し,「対象が認識にのぼることを通じて一切の約束ごとが現れる」という前提が批判対象とシャンカラとの間で共有されていること,にもかかわらず双方は「一切は認識の外に存在するものとして認識される」という実感もシャンカラが尊重する点で対立することを示した。
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