本年度の研究実施計画における実験I「選言文解釈における認知的矛盾」については、当初の計画通りに調査を終了した。実施計画にあるもう1つの実験II「包含の量化に関する認知的矛盾の研究」については、見かけ上同じように見える子どもの反応にも論理的正答と経験的確かめによる正答という2つのレベルがあることが小人数のパイロットスタディーによって分かった。当初の実験計画ではこの点の区別をはっきりさせておらず、そのまま調査を続行しても十分な成果を期待できなかったので、代わりに次年度の研究計画で予定していた「四則演算の可逆性における認知的矛盾」を実験IIとして先行させた。実験I、IIともに当初の予定通り都内の区立小学校の児童72名(各学年12名×6学年)を対象に、筆者および実験補助者が個別的に面接方式によって調査した。 本年度は論理的認識にかかわる矛盾のみを調査するという当初の研究計画は、「包含の量化に関する認知的矛盾の研究」を実施できなかったので、不十分にしか達成できなかったが、次年度に予定していた「数学的認識における認知的矛盾の研究」の一部も今年度に達成できたので、次年度も含めて全体としてみれば、当初に計画した研究計画とほぼ同じ程度の調査を実施することができたと言えるであろう。 本年度実施した実験I、IIの研究成果に関しては、現在その結果を集計、分析中なので断定的なことは言えないが、とりあえず明らかにされたことは(1)実験Iのように経験的確かめのできない認知的矛盾に関しては矛盾の認知そのものが子どもの認知発達水準に依存していること、(2)実験IIのように経験的確かめが可能な認知的矛盾に関しては矛盾の認知そのものは早期から可能だが、矛盾の源泉をどこにもとめるかという点に関してはやはり子どもの認知的水準に依存しているということである。
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