本年度の研究実施計画における実験I「割合の観念における認知的矛盾」については、当初の計画通りに調査を終了した。但し、調査をもう少し年少児にも拡大する必要が生じたので、小学生の被験児数を当初の計画より減らし、代わりに幼稚園児をも調査対象に加えた。現在その結果を集計、分析中なので断定的なことは言えないが、適切な手法を使って被験児の側に認知的矛盾を誘発してやれば、割合の大小を経験的に確認する手段がなくても、割合の観念の形成を促進しうるということが示唆された。 実施計画における実験II「条件型命題論理における認知的矛盾の研究」は中学生、高校生に対して実施する計画であったが、中学生レベルでは命題論理以前の命題解釈で既につまづき、これでは解釈と推論との矛盾を追求することができないので、中学生を被験者とすることを途中からやめ、大学生18名を被験者として実験IIを実施した(そのため、高校生を被験者とする実験は来年度の研究計画にまわされた)。まだ、高校生のデータを欠いているので、結果を発達的に解釈することはできないが、少なくとも大学生レベルでは、論理的推論と命題解釈との矛盾を実験者が示唆してやるだけで、論理的推論の誤りを認め、それを解釈と整合的になるように自己修正しうることが明かとなった。 前年度実施した実験「四則演算の可逆性における認知的矛盾」については、そのデータを集計、分析して、論文『演算順序の可逆性に関する発達的研究』として国立教育研究所研究集録に発表した。この実験の最も重要な知見は、経験的確かめが可能な認知的矛盾に関しては、矛盾の認知そのものは早期から可能だが、矛盾の源泉がどこにあるかを教えるものではないため、新しい解釈方略を探る契機にはなり得ても、それだけでは矛盾の解消に到ることは困難だということである。
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