本年度の実験調査については、当初の研究実施計画通り、高校1年生18名について「条件型命題論理における認知的矛盾の研究」を個別的調査によって実施した。この調査では条件型命題論理として4枚カード問題を用いたが、この問題は大人でも極めて困難であることが知られている。実際、被験者18名中最初から正反応した者は1名にすぎなかったが、その理由を追求することによってさらに4名が、カードの反対側について仮説を立てさせることによってさらに5名が、つまり、合計10名が難解とされる4枚カード問題に、実験者の側で解答を直接教示していないにもかかわらず、正反応することができるようになった。この結果は前年度実施した大学生を被験者とする調査結果と整合するものであり、条件文を条件法的に解釈できさえすれば、最初の論理的推論の誤りを認め、それを解釈と整合的になるように被験者自信が自己修正し得ることが明かとなった。 前年度実施した実験「割合の観念における認知的矛盾」については、そのデータを集計、分析して、論文『割合比較課題にみる認知システムのダイナミズム』として国立教育研究所研究集録第34号に発表した。この実験の第1の知見は、被験児の発達水準が異なれば、認知システムが取り組む課題は異なるものの、認知的撹乱に対する認知システムの対応様式そのものは類似のパターンを持っていること、従って認知システムは直接的なコースに従って発達するのではなくラセン的円環を描きながら発達すること、第2の知見はシステムにおける下位システム間の矛盾の追求は認知システムの再体制化に有効だが、そのためには被験児の側の矛盾の認知が不可欠の条件となることである。
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