研究期間中に行われた4つの実験調査「割合の観念における認知的矛盾」、「四則演算の可逆性における認知的矛盾」、「選言文解釈における認知的矛盾」、「条件型命題論理における認知的矛盾」)によって明らかにされた知見は以下の通りである。 1.論理数学的認識の矛盾には質的に異なる2タイプの矛盾が存在しており、1つは認知システムにとって外在的に矛盾が確認される場合であり、もう1つは認知システムにおいて内在的に矛盾が感じられる場合である。前者は自然科学的認識において理論的予測が実験結果と合わない場合に、後者は科学理論内部にあるいは科学諸理論間に矛盾が存在している場合に対応している。 2.認定的矛盾が認知システムにとって外的に確認される場合、矛盾の存在を認めることは容易であるが、矛盾自体はその源泉がどこにあるかを明らかにするものではないため、主体は試行錯誤に頼らざるを得ず、それだけでは矛盾を除去し、認知システムの再体制化を促す力としては弱い。 3.認知的矛盾が認知システムの内部に存在する場合、矛盾が感じられるかどうかは主体の発達水準そのものに依存し、より初歩的な水準においては認知システムは矛盾そのものを感じることがない。つまり、矛盾の認知そのものが発達的所産となる。この場合、認知システムはその内部において矛盾を矛盾として措定しうるだけの認知的道具(概念的シエマ)を備えていることを示しており、矛盾は認知システムの再体制化を促す力となり得る条件を整えている。 4.認知的矛盾を利用して論理数学的認識の獲得を促進することは可能だが、その場合、矛盾そのものは認知システムの再体制化への方向づけを与えるものではないため、教授学習においてはその方向づけを与えるための何らかのガイドが必要となるであろう。
|