周知のように、大学生を中心とする現代日本の青年層の基本的な価値は、「功利」ないし「選好(好み)」である。他方、日本の企業集団に集団主義的な特徴が見られることもまたよく知られている。日本のビジネスマンは、一般に自己の所属する企業に対し高い貢献動機をもつ。この二つの事柄すなわち青年文化における「功利」と「好み」の優越と、ビジネスマンの世界における「集団へのコミットメント」の優越の間には明らかに大きな断絶がある。にもかかわらず毎年新しいメンバーとして企業団体に入っていく青年たちの多くは、「集団主義」にすばやく順応しているようだ。この迅速な順応(「転向」)はいかにして可能なのか。 こうした問題を解く第一歩として、本研究では現役ビジネスマンと大学生を対象にした面接調査を実施するとともに、関西のある私立大学4回生を対象にしたアンケート調査を行ない、「転向」の実態の解明に努めた。そこでえられた知見は以下のようにまとめられる。 現代の大学生は、入学時から2年次くらいまではあまり進路のことを考えない。もっぱらクラブ・サークル活動に力を入れる。進路について考え出すのは、3年次からである。すなわち2年次までは「選好」中心の生活であり、3年次から「功利」中心の生活に転換する。「功利」への関心の移行は「集団主義」への移行と等価ではない。だが実際には、企業団体に入ることによってしか功利的な関心の実現をはかることはできないので、就職活動をする頃から企業への同調的な態度を(道具的にではあれ)とることが求められる。表面的な同調の傾向は入社後も続く。大学を出て新たに企業に入った青年たちは一般に集団主義に対しては冷淡なのだが、今述べた状況下に長期間おかれるうちに、彼らの中で一種の態度変容が行なわれ、集団主義的な態度が形成されていくのだと考えられる。
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