平成6年度は、戦後日本の価値観に関する文献資料の収集、先行研究のまとめと、大学生300名余を対象とした価値観調査を実施した。平成7年度は、神奈川県内の一般男女2000名を対象とした価値観調査を実施した(回収694名)。本年度は、こうした過去の調査結果を分析してまとめ、本研究の当初の目的にそった個人主義-普遍主義の価値軸の検討を進めた。 戦後日本の大きな価値観変化として、社会・集団志向から個人志向へという移行が指摘されているが、実はこうした単線的変化ではなく、個人志向といってもその内部は二極化している、すなわち快楽主義的個人主義と普遍主義的共生主義に分かれているのではないかというのが、そもそもの問題意識である。社会・集団の役割や規範に縛られず、個人の欲求や価値を重視し、優先するという点では両者は同じであるが、前者があくまでも個人の欲求・価値(特に「快」欲求)に忠実に従い、それを最優先するのに対して、後者は他者の欲求・価値を鑑みながら相互調製して両者によりよい状態を模索することを志向する、その意味で共生主義的であり、かつ他者が特定の社会・集団内の成員に限定されず、想像力によって把握されるボーダーレスの他者であるがために普遍主義的と呼ぶものである。 以上のことを、昨年までの調査結果を分析することで示そうとした。結果は、快楽主義的個人主義の存在を確認することができたが、普遍主義的共生主義の存在はそれほど明確に掴むことはできなかった。しかしそうした志向性の萌芽はみられた。普遍主義的共生主義は、昨今のボランティア活動やネットワーキングのプロセスから垣間見られる行き方ではあるが、それが個人の人生の中枢を占め、行き方に関する調査データにも明確に現れてくるにはまだ時間がかかるのかもしれない。
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