ライプニッツ文化多元論と自然法 1.「自然法」概念のヨーロッパ的特殊法:(1)トレルチが指摘したように自然法概念はストア派に根元を発し、キリスト教神学に流入した道徳的理想である。聖トマスによって体系化され近世に持ち越された。(2)この概念は「自然の合理性」と「人間の合理性」とを同一視する点で、他の文明に例をみないヨーロッパ的特殊性を形成した。(3)近世以降の「神の終焉」に際し、この同一視は、宇宙の合理性根拠を人間の合理性に求めるという奇異な観念を作り出した。 2.ライプニッツ宇宙論の貢献:(1)彼は自然法概念の精神的系譜から出発しつつ、はじめて二つの合理性が異なったものであることを明示し、この伝統に終止符を刻した。(2)あらゆる研究分野で誰よりも優れた実績を残した彼は、「自然の合理性」は人類文化の長期の経験の蓄積から信じられるべき対象とした。こでが彼の主張した「理性と信仰の一致」である。(3)これは、ラッセルを含め、従来内外に神学的主張とされてきたが、まったく事実に反する。これはライプニッツ多元文化論の根元である。 3.ライプニッツ倫理学の特色:(1)彼以後も異次元の両合理性を同一と見るヨーロッパ精神は修正されなかった。(2)この結果神の死とともに合理性概念は「人間の合理性」を万物の尺度とする普遍主義狂信を招いた。(3)人間学にこれが残した悪弊は人間社会を合理化過程にあるとする「進歩」の歴史観である。この進歩は結局西欧化を意味した。(4)ライプニッツ倫理学はこれと完全に袂を分つ文化多元主義である。従来研究の中でこの事実に多少とも留意していたのは1960年代のハイネカンプの研究のみである。(5)彼の文化多元論は、後世の生物学的「進化」さえ予想させる。 4.ライプニッツ再評価:彼の形面上学の再評価は1970年代マンデルブロ-のフラクタル幾何学で本格化した。社会学をはじめ人間科学まだ本質を理解しえていない。本研究は研究成果刊行助成を得て1998年に出版を意図している。
|