本研究計画は、従来短絡的、印象論的に利用されてきた民俗の地域差を実証的に検討して、そこから地域差の持つ意味を明らかにしようとする研究計画の一部であり、東西の相違を主張するほとんどの研究が事実上太平洋岸中心の研究であったことを反省して、日本海側の村落社会に伝承されてきた民俗事象の東西の相違を把握しようとする。 6年度においては定点調査地を新潟県中魚沼郡津南町外丸及び富山県礪波市神島という二つの村落に設定して、継続的な調査を実施してきた。その結果、多くの基本的資料を入手することができたが、研究の初年度であるので、各村落の詳細な民俗事象の把握までいたっていない。しかし、新潟県津南町と富山県礪波市の村落では大きく民俗伝承の内容に相違があることが判明した。特に村落社会の編成原理において、家々の系譜関係が何かと強調される津南の村落に対して近隣関係が顕著な礪波の村落ということになるが、それらの相違よりも家を強調する社会としての共通性がよりいっそう注目される点である。特に従来ややもすると安易に近畿地方との関連や影響が言われてきた富山県内の村落について、必ずしもそのようには把握できないことが明らかになった。散居村として有名な礪波平野の村落については、景観的にも個別屋敷が強調されるが、それはその内部の社会秩序を見事に外見として示しているものと言える。 したがって、日本海側における東西の地域差を究明するためには、より近畿地方に近い地域での調査分析が必要である。そのための手掛かりを得るための予備調査を福井県若狭地方において実施したが、そこでは近畿地方とほとんど区別できない民俗事象が行われていることが確認できた。来年度には加賀、越前、若狭等の地域において重点的に調査を行うことが本研究の重要な課題である。
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