昨年度までは主節の発話の意味構造と統語構造の分析を主として行ってきたが、今年度は英語の従属節の意味機能と構造の関係を主要な研究対象とした。コミュニケーションの場で発話された文(主節)の意味は、1)発話の力(文が遂行する発話行為の意味効果)、2)命題態度(命題に対する話者の心的態度)、3)命題的法性(命題態度を反映する命題の様相)、4)命題(文が表す出来事または状態)、の四つの部分からなるというのがこれまでの本研究の結論であるが、今年度はこの文(主節)の発話の意味構造分析が従属節にどの程度適用できるのか、また、従属節の意味構造が統語的にどのような形式を取って現れるのかを検討、調査した。その結果、従属節に関しては、英語の知覚動詞、使役動詞の補文のようにその意味内容が4)の命題であるものから、sayの補文のように主節と同じ内容、すなわち、1)〜4)の四つの部分をすべて含むものまで、文の発話の意味構造分析が予測するすべての種類の意味内容を持つ従属節が存在することが判明した。また、このような意味特性を持つ補文(従属節)のそれぞれは、直説法定形節、仮定法節、to不定詞節、小節という異なった統語形式の節のいずれかに具現することが観察され、従属節の意味特性と統語形式の間に密接な対応関係が存在することが明らかになった。さらに、付加詞(adjunct)、離節詞(disjunct)、連結詞(conjunct)の役割を果たす副詞節(接続詞に導かれた従属節)も動詞の補文と同様の意味構造分析が可能であり、本研究の分析法によると従来無関係に論じられてきた動詞の補文と副詞節を統一的に扱うことができることも判明した。そこで本研究の分析法が理論的に予測するこれらの従属節の意味特性と統語形式の対話関係を、これまで集積してきたデータベースに基づき言語資料によって実証する作業を現在行っている。
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