研究概要 |
(1)小野の「非飽和流動性選好」の理論を応用した不均衡動学過程の分析に,労働市場を明示的に導入し,慢性的失業の発生メカニズムとその方策について研究した.そこではまず,動学的最適化行動をもとにしてインフレ率と総需要および総供給との関係を求めた.また,それを使って伝統的総需要-総供給分析を作り替え,新たにインフレ総需要-総供給分析という手法を開発した(著書『金融』に収録).さらに,それを応用して,各時点での財政金融政策のもとで成立する動学的均衡点としてのインフレ率と失業率との軌跡を求めてそれがフィリップス曲線の形状を持つことを明らかにし,フィリップス曲線に新たな動学的基礎を与えた(雑誌論文の第1と第2として発表).さらに,この理論を2国開放経済モデルに応用し,貿易を通じて相互依存関係にある国々における不況の発生や物価,実物質産蓄積,為替レートの非定常動学経路の性質と各国の対外資産残高との関係を解明しつつある. (2)時間選好率の国際間差異によって対外累積債務が生じるような2国モデルを考え,財政支出政策がその対外不均衡と各国の経済厚生水準に与える影響について分析した.そこでは,課税方法として消費税を採用する場合,一定の財政支出を行うという前提のもとでは消費税率を変えていかなければならず,それが消費経路に経済的歪みを生み出して,人頭税と比較した場合,自国経済厚生に悪い影響を及ぼすことが明らかになった.また,消費税のもとでは海外への波及効果がないことも分かった. 「非飽和流動性選好」を前提にした不均衡動学モデルの現実妥当性を実証的に明らかにするための,無限個の操作変数を用いた一般化モーメント法による漸近的最小分散推定法の開発に成功した.それと並行して,米国のパネル・データを取得し,現在整理中である.
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