本研究では、日本企業の海外事業活動における生産、物流、資金調達、決済について実証的に調査・研究し、それを踏まえて円の国際化、国際資金還流方式の変容(政府主導の援助型から民間の直接投資型)、アジア金融決済市場の発展、アジア太平洋経済における円とドル等について分析した。 研究成果は、『多国籍企業のアジア投資と円の国際化』(税務経理協会、平成8年4月刊)として上梓される。そこでは、(1)アジアの成長と資本の自由化(APECにおける貿易・資本自由化論議の意味、直接投資とアジアの経済開発)、(2)アジアの成長と貿易投資問題(直接投資と資本の移動、直接投資と円の国際化、アジアの成長と円の国際化問題)、(3)日韓企業のアジア投資と金融・決済市場(日本多国籍企業のアジア投資と現地資金調達、アジア生産ネットワークの形成とアジア・マネーによる決済、韓国製造業企業の資金調達・決済方法とドルの役割)、(4)日米多国籍企業のアジア投資と資金調達(日米多国籍企業のアジア投資資金調達、直接投資と資本過剰との相関性)、(5)日本企業のアジア投資と貿易決済方式(アジア地域企業内分業の進展と貿易決済方法の変容、日本企業のアジア進出と円の国際化)、(6)韓国企業のアジア投資と資金調達・決済方法(韓国企業のアジア投資と海外事業活動、アジア投資と資金調達方法)について分析している。 また、報告書に添付しているように、「アジアの国際資本移動における数量分析」を行い、国際金融市場とアジア諸国金融市場との間にインタラクティブな関係はなく、アジアの成長プロセスでアジア金融市場は相対的に自立して発展していることを分析した。これは、直接投資資金が本国ではなく、現地で調達されているというアンケート調査の結果との一致している。 本研究では、アンケート調査、インタビュー、その他第一次資料を駆使して、アジア金融市場がドルから相対的に自立し、実体経済とともに金融経済の面でもドルからの相対的離脱が進みつつあることを検証した。この成果を踏まえて、次にドルからの離脱のプロセスの具体的なメカニズムを解明し、それに逆らうドル体制の側からの反作用について調査研究して行きたい。
|