1993年6月23日の財政健全化再編法により、1990年から1994年までの過渡期を経過した後の統一ドイツ規模での財政調整制度が確定した。それは、経済界を中心として主張された、統一ドイツは社会国家的財政調整制度の負担に絶え得ないという主張を退けて、旧西独基本法の社会国家・福祉国家的理念を基本的に受け継ぐものであり、旧西独経済への多額の負担を強いるのみならず、統一ドイツの財政力にとっても過大な政府サービスを存続させるものである。それは、農業保護・調整を中心とするEC内財政調整の発想と思考様式を基本的に共通にする。他方、マ-ストリヒト条約に具体化されている統一市場・統一通貨制度の創設に向けた拡大EU路線は、自由化と規制緩和を中心に大競争時代においてアメリカ・日本に対抗して企業の国際競争力を強化するものであり、そのための第3段階への移行の基準として一定枠内への財政赤字の抑制、財政健全化が加盟各国に義務付けられている。この新EUの一員としての発展方向にしかドイツの将来がないとすれば、社会国家的財政調整は国際的にも国内的にも早晩修正を余儀無くされざるを得ない。だが、福祉国家的財政調整を選択させた国民意識が近い将来簡単に転換し得ないとすると、統一市場・通貨による拡大EU路線と社会国家的財政調整との両立を保障する条件は、国民経済の中成長の確保であり、その実現条件は国際競争力強化、先端産業の技術革新であり、また高コスト体質の転換=高価な政府・社会国家理念の放棄であろう。社会国家理念の維持に伴なう高い統一コストと拡大EU実現の矛盾に直面しているのが今日のドイツ財政である。以上のことが本年度の研究の成果である。 このディレンマがドイツおよびEUの財政調整制度において如何に具体的に展開してきたかという点が、また、どのように解消されていくかの分析が、今後の課題である。
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