(1)農産物市場の開放と円高の急激な進展は、食品工業の原料調達構造に大きな影響を与えてきている。とくに、後者の事態は原料農畜産物および加工食品の内外価格差を大きく拡大し、製品輸入や食品工業の海外進出に拍車をかけている。また、農業生産構造の脆弱化の進行は、国内における原料調達基盤を不安定にし、輸入依存態勢への傾斜をますます強める要因となっている。われわれは、こうした事態に対応して、食品工業の原料調達構造の今日的特徴を把握し、食品工業と原料向け農業生産の今後の発展の方向性を考察することが急務であると考え、本年度は酒造業を取り上げ検討した (2)酒造業や酒米生産に関する既存資料・文献を収集し、その分析を行うとともに、新潟県、広島県、兵庫県、北海道を対象に酒造メーカー調査、酒造組合など関係機関調査、農協・農家調査を実施した。 (3)本年度の調査研究で得られた知見は、(1)今日のいわゆる「高級酒」(純米酒、吟醸酒など)ブームが決して一過性のものではなく今後とも引き続くものであること、(2)ただし、その「高級酒」も高価格品と廉価品の二極に分化してきつつあること(従って、清酒市場は高価格「高級酒」、廉価「高級酒」、「一級酒」の三つに分化)、(3)そうした中で酒造メーカーの再々編が徐々に進みつつあること、(4)酒造好適米生産構造が担い手の高齢化等から脆弱化の方向を辿っており、こうした傾向が一層進めば、近い将来、特に廉価品生産の分野に輸入米が導入される可能性があること、そして(5)最近のいわゆる「価格破壊」現象と関連して、特に一般酒醸造用かけ米に輸入米が導入され、国産かけ米との競合関係が深化していく可能性が強まっていること等である。
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