英語字幕つきの映画が日本の英語教育に利用され始めて10年ほどたつ。学習者全員に字幕の付加の効果が期待できないことは、いくつかの研究、あるいは、筆者らの先行研究よりかなり明らかにされてきた。 今までの字幕効果の研究では、視聴過程つまり、視聴者がスクリーン上の情報を処理する際に、画面上のどこを、どのくらいの時間、どのように注視しているのかというデータがほとんど皆無であった。視聴過程を分析しなければ、字幕の理解に対する効果/干渉がなぜ、どのように起きるのか解明されない。 本研究では、視聴中の視線運動を明らかにすることに注目し、実験を重ね、聞き取り訓練における効果的な字幕の利用法構築を目指して、研究を行った。 まず、英語上級者の視線運動が三角形の情報処理(映像->字幕の頭部分-字幕の終->映像)であることを突き止め、次に事前練習を課することにより、言語理解(聴解+読解)を高めることができた。ところが、その際、受動的な点に重きを置いた事前練習に対して、理解の伸びが確認できない学習者群がいることが判明した。 この点に着目して、さらに学習者の英語習熟度に応じた事前練習を施すことにより、内容理解を高め、視線運動のパターンも上級者に近づけることができた。具体的な聴解訓練においては、英語習熟度の低い者には、比較的高い者と違い、受動的+能動的な発話練習を施すことにより、理解を高めることができるということがわかった。 一方、英語のネイティブスピーカーの視線運動を調べた結果、さらに興味深いことがわかった。上級者の三角形の情報処理の上を行く、多角形の情報処理を行っていることが解明された。つまり、映像->映像->字幕->映像-映像というパターンである。字幕を部分的な確認程度しか利用しない分、時間に余裕ができ、映像を注視する時間が多くなると考えられる。この考察を進めていくと、英語のレベルが上がるに連れ、多角形の辺(角)が増えていくということになるであろうということがある程度明らかになったことも、本研究において大きな収穫である。
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