科研費研究の最終年度に当たり、これまでの研究成果を6編の論文として、研究成果報告書にまとめた。研究成果の主な点は次の通り。 (1)新たな語彙の習得において、漢語表現の果たしている役割は大きく、具体から抽象へ向かう語彙習得の発達段階を見る上で、一つの指針となり得ること。(村上、田中「同題作文における漢語表現の発達」) (2)作文語彙データベースの定量的分析を行った結果、文の長さは小二、小六、高一で変化が見られ、発達は「長い文が書けるようになる段階」「複雑な文が書けるようになる段階」「文の長短を意識して書けるようになる段階」と捉えられること、異なり語数は、小一と大学生では二倍以上に増えること、品詞別には、感嘆詞を除いて学年を追って増えることなどが明らかになった。(成田、宗我部、田中「作文能力発達に関する縦断的件究-小学生から大学生に至る同題作文の分析-」 (3)語彙レベルの繰り返しについて、低学年で多用され、次第に減少していく傾向が見られるが、その一方で、指示語の使用が学年が上がるにつれて増えていき、「そ」系、「こ」系、「あ」系の指示語という発達過程をたどることが確認された。その一因として、読み手を意識した表現の獲得過程との関わりが推察された。(佐々木「日本語における結束性の発達と習得-指示語と繰り返し-」) (4)日本語学習者の文末は同年齢の大学生の文末と比較すると、命題と説明のモダリティで文を終止する比率がかなり大きく、逆に真偽判断のモダリティの比率が小さいことが確認されが、このモダリティ表現の習得の不十分さが、日本語学習者の不自然な語調を生む原因になっていることが示唆された。(佐々木、川口「日本人小学生・中学生・高校生・大学生と日本語学習者の作文における文末表現の発達過程に関する一考察」)
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