聴覚障害児が算数文章題の解決過程のどこでつまずくのか、そのつまずきは何によっておこのるかを明らかにするために、算数文章題の解決過程における眼球運動を測定した。アイカメラによってとらえた眼球運動をビデオテープに録画した後、データプロセスユニットを通してコンピュータに入力し、解析用ソフトウェアによって分析した。分析にあたって、算数文章題の解決過程を理解過程と計算過程に分けて、それぞれの過程における停留点の数、停留時間、移動時間、移動速度を求めた。 被験者には実験群として聾学校中学部1〜3年生9名、統制群として大学生9名を用いた。 分析の結果、次のようなことが明らかになった。(1)停留時間、移動時間、移動速度は聴覚障害児と大学生間に有意差はみられなかった。理解過程と計算過程にも有意差はみられなかった。(2)停留点の数は聴覚障害児と大学生の計算過程間に有意差がみられ、聴覚障害児の方が停留点の数が多かった。 聴覚障害児の計算過程において、停留点の数がなぜ多いのかを調べるために、あらかじめ実施してあったテープ図テスト(算数文章題の全体の表象能力を調べるテスト)の結果によって、聴覚障害児を低得点群と高得点群に分けて、大学生を含めて3群で停留点の数に差があるかどうかを調べた。その結果、次のようなことが明らかになった。(1)聴覚障害児の低得点のみが有意に停留点の数が多かった。このことより、聴覚障害児の中にテープ図に代表される算数文章題の全体の表象能力が劣る生徒がいることが明らかになった。 算数文章題の全体の表象能力が劣るのは、文章の理解力がないからか、表象能力自体が劣っているのかわからないので、次の研究課題になった。
|