研究概要 |
大気汚染物質として、NO_2に加え、SO_2,H_2O_2,O_3濃度の長期暴露(1カ月間)測定を、1995年1月から1996年1月まで毎月行った。調査地は前年度と同じ、広島県極楽寺山の瀬戸内側から頂上、そして内陸側の登山道沿いに標高100m毎の調査地点である。また、この調査地点ではヒサカキの葉の出葉から落葉(脱落)に至る経過を2月に一度の頻度で追跡した。さらに、広島大学の圃場で、クロマツ苗木(250本)を用いて、松枯れの一原因とされているマツノザイセンチュウを接種し、その影響を検討した。 NO_2濃度とその動態は、前年度とほぼ同様で、瀬戸内側斜面下方で高く、これが頂上に向けて減少し、頂上から内陸側斜面の下方に向かって、さらに減少した。これと同様な動態を示したのがSO_2であった。ただし、瀬戸内側と内陸側の濃度較差はNO_2ほどではなかった。一方、H_2O_2やO_3濃度は頂上で最も高く、両斜面側で同じく下方に向かって減少する傾向が見られた。しかし、それらの濃度はせいぜい10数ppbレベルであった。 ヒサカキの葉の出葉とその寿命はNO_2濃度が高いほど、減少また短縮し、瀬戸内側斜面下方で最も少なく、また短かった。さらに、マダラカミキリが実際にマツに移すと思われる、数百頭レベルのマツノザイセンチュウでは、無接種の場合とその影響(枯死率)に有意な差異は見られなかった。以上より、瀬戸内沿岸部では、沿岸部域の大都市や工業地帯からの大気汚染(特に、NO_2とその二次汚染物質)が沿岸部の山の斜面に吹き寄せられ、これが樹木の衰退を長年かけて引き起こしているものと思われた。今後、酸性降下物質の動態や樹木の生理活性(光合成能など)に立ち入った調査・研究が求められよう。
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