広島県西部の瀬戸内海沿岸部に位置する極楽寺山を対象とし、大気汚染が進行していると推測される山の南側斜面と、比較的汚染されていないと思われる山の北側斜面に分け、それぞれ標高差別に、NO_2濃度の多点測定を実施した。測定に関しては、短期暴露と長期暴露の2つの方法で行った。また、アカマツ葉・枝上の酸性降下物質を現地にて行った。測定の結果、南側斜面標高100-200mでNO_2が高濃度となり、これが標高の上昇と共に低下し、北側斜面では標高さにかかわらず、NO_2濃度のより低下が観測された。これらの濃度の傾向は常に維持されているものの、海陸風の影響をうけて季節変化することがわかった。アカマツ葉・枝上の酸性降下物は、非海塩SO_4^<2->値では北側斜面の方が相対的に高く、NO_3^-値で南側斜面の方が相対的に高くNO_2濃度と対応していた。また、瀬戸内海沿岸部に限らず、ガス状物質の長期的な評価と樹木活力度と相関関係を現地で多点的にとらえた研究例はない。そこで極楽寺山にて、NO_2濃度測定点を含むベルト・トランセクト上でアカマツの枯死率、サクラ類の枯死率・出葉率、ヒサカキの落葉率といった樹木活力度を調べた。調査の結果、NO_2濃度が高い南側斜面の低標高地点で、アカマツの枯死率が著しく高く、活力度の低下が顕著であった。また、サクラ類についても、南側斜面では北側斜面と比較して枯死率・出葉率が低かった。従って、現地ではNO_2濃度とマツ林を中心とする樹木衰退との有意な相関関係が示された。
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