研究概要 |
パルスNd:YAGレーザーの基本波(波長1064nm)の第3高調波(波長355nm)、第4高調波(266nm)を励起光源とする紫外レーザー励起ラマン分光システムを構築した。分光器には既存のトリプル・ポリクロメーターを使用した。紫外励起ラマン分光法の表面測定感度を評価するためにNi(111)面上のアモルファス・ニトロベンゼン層のラマン散乱の測定を行った。その結果、以下の知見が得られた。 1.パルスレーザーを使用しているため表面損傷を与えることなしにNi(111)表面に照射できるパワーは13mW/mm^2以下である。 2.紫外光(355nm,266nm)照射によるラマン・スペクトルに経時変化が起こる。これはニトロベンゼン分子が紫外光照射により変質(解離や脱離など)していることを示す。 3.355nm励起ではNi(111)基板やニトロベンゼン分子からのフォトルミネッセンスが強い。これによりスペクトルのバックグランドが上昇し、200分子層程度のアモルファス・ニトロベンゼン層からのラマン散乱しか観測できなかった(励起強度1mW)。 4.266nm励起では7分子層のアモルファス・ニトロベンゼン層からのラマン散乱が検出できた(励起強度0.2mW)。ニトロベンゼン分子は250nm付近に吸収があること、液体のニトロベンゼンの偏光解消度が0.4で可視光励起の場合の0.17と異なることから、共鳴ラマン効果が起こっていると考えらる。355nm励起に比べて266nm励起の測定感度が〜100倍向上したのはこの効果による。 現段階ではニトロベンゼン単分子層からのラマン散乱を検出することはできていない。この最大の原因は使用している分光器の透過率が悪いためである。現在、本年度購入した紫外用小型分光器と既存のシングル・ポリクロメーターを組み合わせて高透過率の紫外ラマン分光システムを構築している。また、紫外光照射による吸着分子のダメ-ジは避けられないが、測定中試料を移動するといった工夫をすることによって試料のダメ-ジを軽減していく予定である。
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