研究概要 |
前年度は分光器として既存のトリプリ・ポリクロメーターを使用して紫外レーザー励起ラマン分光システムを構築し、Ni(111)面上のアモルファス・ニトロベンゼン層のラマン散乱の測定を行った。しかし、紫外光領域でのトリプル・ポリクロメーターの透過率が低かったため、7モノレ-ヤ-以上の吸着量でしかラマン散乱を観測することができなかった。 今年度は、前年度購入した紫外用小型分光器と既存のシングル・ポリクロメーターを組み合わせ高透過率の紫外ラマン分光システムを構築し、Ni(111)面上のニトロベンゼンのラマン散乱を測定した。その結果、2モノレ-ヤ-以上の吸着量でニトロベンゼンのラマン散乱が観測できた。2モノレ-ヤ-の吸着量で観測できたラマン・ピークはNO_2対称伸縮振動(1346cm^<-1>)とベンゼン環のC=C伸縮振動(1595cm^<-1>)であった。このときの測定条件は以下のとおりである: 励起条件:波長266nm,p偏光,入射角70°,試料上での照射密度70mW/cm^2 観測条件:偏光解析なし,観測角60°,積算時間160分 また、紫外光照射によるニトロベンゼン分子の損傷を避けるために10分毎に励起光の照射位置を変えて測定した。 7mW/cm^2という非常に弱い照射強度密度で2モノレ-ヤ-からのラマン散乱が観測できた。これは266nm励起のニトロベンゼン分子のラマン散乱断面積が488nm励起のときよりもω^4則と共鳴効果の重畳により約4500倍増強したためで、紫外レーザー励起表面ラマン分光法の有用性を示している。 2モノレ-ヤ-以上の1346cm^<-1>のラマン・ピークの強度を吸着量の関数としてプロットしてみると散乱強度ゼロの吸着量が約1モノレ-ヤ-であった。このことからNi(111)表面に直接吸着しているニトロベンゼンは解離しているかもしくは非常に強く化学吸着していることが分かった。
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