平成7年度には、ポリジアセチレン(PDA)における「光誘起相転移」現象に関して以下の様な成果が得られた。 (1)学内・外の共同利用施設のパルスレーザーを用いたナノ秒時間分解反射(吸収)スペクトルの測定によって、光誘起相転移の初期過程(ドメイン壁形成過程)が50ナノ秒以下の非常に短時間で起きていることが明かとなった。 (2)自作のチタンサファイアレーザー増幅システムを用いたピコ秒ポンプープローブ測定システムを立ち上げた。これを用いた実験によって、局所的励起状態から巨視的相転移に至るには約500ピコ秒かかることが明かとなった。 (3)温度ヒステリシス外の温度領域において、光励起によって発生した揺らぎ(不安定相ドメイン)が、元の安定相に緩和して行く様子を時間分解分光法で刻一刻と追跡することに成功した。これによって、相転移の50K近く下の温度においてもミリ秒近くまで大きな揺らぎが残っていることが明かとなった。 (4)光伝導の動的測定を種々の励起強度において行った結果、光伝導の大きさが、相境界壁の運動と密接に関連していることが明かとなった。このことは相境界壁がバイポーラロン状態と密接に関連していることを示唆している。 得られた成果は相転移一般の研究にも広く影響をあたえつつある。ただし本年度の研究成果から、「光誘起相転移」現象の初期過程は非常に高速(1ナノ秒程度)であると予測され、時間分解能をピコ・フェムト秒まで高めた研究をさらに展開して行く必要があることが明かとなった。
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