本研究によって、共役ポリマー:ポリジアセチレン(PDA)における「光誘起相転移」現象に関して以下の様な成果が得られた。 (1)アルキル-ウレタン基を持つ各種PDAのモノマー単結晶を再結晶法によって作製し、γ線・紫外線照射による固相重合法によって良質なポリマー単結晶を得ることが出来た。 (2)得られた単結晶の一部について、反射・ラマンスペクトル及びその温度変化の測定を行い、重合γ線量との関連を検討しより優れた温度誘起相転移特性を示す単結晶を得るための条件を明らかにすることが出来た。 (3)学内・外の共同利用施設のパルスレーザーを用いたナノ秒時間分解反射(吸収)スペクトルの測定によって、光誘起相転移の初期過程(ドメイン壁形成過程)が50ナノ秒以下の非常に短時間で起きていることが明かとなった。 (4)自作のチタンサファイアレーザー増幅システムを用いたピコ秒ポンプープローブ測定システムを立ち上げた。これを用いた実験によって、局所的励起振動から巨規的相転移に至るのに約500ピコ秒かかることが明かとなった。 (5)温度ヒステリシス外の温度領域において、光励起によって発生した揺らぎ(不安定相ドメイン)が、元の安定相に緩和して行く様子を時間分解分光法で刻一刻と追跡することに成功した。これによって、相転移の50K近く下の温度においてもミリ秒近くまで大きな揺らぎが残っていることが明かとなった。 (6)光伝導の動的測定を種々の励起強度において行なった結果、光伝導の大きさが、相境界壁の運動と密接に関連していることが明かとなった。このことは相境界壁がバイポーラロン状態と密接に関連していることを示唆している。得られた成果は相転移一般の研究にも広く影響をあたえつつある。ただし本年度の研究結果から、「光誘起相転移」現象の初期過程は非常に高速(1ナノ秒程度)であると予測され、時間分解能をピコ・フェムト秒まで高めた研究をさらに展開して行く必要があることが明らかとなった。
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