われわれはここ数年間、ポリマーやガラスにドープした色素分子ならびに蛋白質中の発色団を対象にサイト選択蛍光分光を行ない、環境の違いによってエネルギーの広がった分布の中から特定のエネルギーをもつ少数の分子のみに関するスペクトル情報を得る研究を行なってきた。そしてこれから、上記のような複雑な系について、ゲスト分子との結合強度で重み付けされた母体のフォノンの状態密度(WDOS)スペクトルを決めることができることを示した。さらに今回、ピーク振動数で規格化すれば、WDOSスペクトルが非晶質の種類によらずほぼ同じになることを見いだした。また、ミオグロビンについて得られたWDOSを使った詳しい解析から、亜鉛置換ミオグロビンの場合、180K付近で液体-ガラス転移を起こすことも知られた。しかし、外場に対する応答を見た場合、このようなサイト選択の方法では、微視的なパラメターのアンサンブル平均しか得られない。それに対し凝縮系中のゲスト分子数を十分少なくするならば、微視的なパラメターを直接測定することも可能になる筈である。そこで、十分少数のゲスト分子を含む高純度の試料を作る方法の研究、その光スペクトルを測定する方法の研究、スペクトルの解析方法の研究などを行なった。その結果、pーターフェニル結晶中のペンタセン分子の場合には、1.8KでO_1サイトにある分子の励起スペクトルの裾に、半値全幅9.6MHzのローレンツ型の細い線が観測された。その幅が寿命から予想される約8MHzとほぼ合うこと、ならびに周波数を走査したときのその線の現われる頻度とその強度から、これは単一の分子によるものであると結論した。しかし、これに関して各種の物性研究を行なうにはS/N比を改善する必要があり、現在それを試みている。
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