本研究は、超伝導細線や超伝導接合の網状システム(超伝導ネットワーク)のフラストレートした超伝導状態を、それを特徴づける磁束量子の配置状況を実験的に観測する事によって解明しようとするものである。本年度は、試料作製法の確立と実験装置の整備を中心に研究の準備を進めた。試料作製に関しては、電子線リソグラフィー法の条件出しを終え、任意形状のアルミニウム2次元超伝導細線ネットワークを作製できるようになった。測定系については、7T超伝導マグネットを装着したデュワ-に400mKまで冷却可能なヘリウム3冷凍機を組み合わせた低温装置を整備した。更に、弱磁場中でのネットワーク試料の超伝導転移温度の磁束量子化振動を観測するために、交流磁場とサンプリングオシロスコープを用いる簡便な測定系と、微小変化する超伝導転移温度に正確に温度制御する精密測定系を整備した。後者のために低温で0.1mKの精度で温調可能な専用温度制御装置を製作した。以上を準備した上で、まず三角格子超伝導細線ネットワーク試料を実際に作製し、予測される磁束量子配列に対応する超伝導転移温度の振動を観測した。三角格子は良く研究されてきた正方格子と異なり超伝導ループ2つで1つの単位胞を形成するので、ループあたり1/2の磁束占有率(単位胞あたり1磁束)で超伝導が強く安定化する(転移温度が上がる)。また、大きさを変えた各種の正方格子ネットワーク試料を作製し、有限サイズの効果(境界の効果)を調べている。無限系に近づくにつれ磁束量子化振動が系統的に複雑化していく様子が観測されつつある。なお磁束量子の配列パターンを直接観測するために、多数の微小ホール素子をネットワーク上に配置した試料を作製する準備を進めている。現在作製の条件出しを行っており、次年度にこれを用いた実験を行う予定である。
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