本研究は、磁場中の超伝導細線網(超伝導ネットワーク)における各ループへの磁束量子の配置状況を実験的に調べることにより、系のフラストレートした磁場中超伝導状態を解明しようとするものである。具体的には、アルミニウム細線の各種2次元超伝導ネットワーク試料を作製し、磁束量子の配列様式で特徴づけられる磁場中超伝導状態の安定性を転移温度の微小変化から調べた。まず電子線リソグラフィー法による試料作成プロセスを確立した。次に外部磁場引加時の転移温度の微小変化を検出するための2種の実験システムの構築を行った。第1のシステムは、超伝導転移の中点付近に温度を固定して短時間内に磁場掃引を行い、転移中点の抵抗値からのずれで転移温度の微小変化を検出する簡易型システムである。しかし感度が不十分であったので、第2のシステムとして試料が常に転移中点の抵抗値になるように温度制御して転移温度を直接測定する方式の実験装置を作製した。試料自体を温度制御用の超高感度の抵抗温度計として用いているため、超伝導転移幅10mk程度に対しふらつき30μk以下の温度制御安定性を達成できた。磁場に対する転移温度の磁束量子化振動の典型的振幅は数mk程度なので、これは磁束配列様式に対応した微細構造を検出するのに必要十分な安定度である。この装置を用いて、三角格子および菱形格子の超伝導細線ネットワークについて実験を行ない、転移温度の磁束量子化振動の上に重畳する微細構造を観測した。これはループあたり有理数比の磁束占有率で磁束量子の周期的秩序配列が可能になり超伝導状態が安定化することに由来する。理論と比較により試料の超伝導コヒーレンス長は0.数μmと見積もられた。なお磁束量子の配列パターンを実空間で直接観測するために、磁束量子測定用の微小ホール素子を超伝導ネットワーク上に配置した試料のプロセス手順を確立したが、実験を行うには至らなかった。
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